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東京高等裁判所 昭和39年(行コ)7号 判決

控訴人(原告) 天野正則

被控訴人(被告) 山梨県知事

主文

原判決を取り消す。

本件訴を却下する。

訴訟費用は、第一、二審とも、控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和三十四年九月二十二日山梨県都留市下谷一、五九九番の一田一反三畝、同所二、二一六番畑一四歩に対しなした禁猟区設定行為の無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴指定代理人等は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、法律上の主張、証拠の提出および認否は、被控訴指定代理人において、控訴人が本件禁猟区内にその主張の農地二筆を所有していることは認める、右禁猟区設定行為が事実行為であつて、行政処分でないとの従前の主張は撤回する、と述べ、控訴人において、右主張の撤回に異議はない、と述べたほか、原判決事実摘示の記載と同一であるから右記載を引用する。

理由

被控訴人が、昭和三十七年法律第一四〇号によつて改正せられる以前の旧狩猟法第九条の規定に基づき、昭和三十四年九月二十二日、山梨県都留市地域内に、その名称を「谷村町禁猟区」とし、その存続期間を同年十一月一日から昭和三十九年十月三十一日までとする禁猟区(以下「本件禁猟区」という。)を設定したこと、控訴人が本件禁猟区の区域内に、その主張の都留市下谷一、五九九番の一田一反三畝および同所二、二一六番畑一四歩(以下この二筆を併せ「本件農地」という。)を所有していることは、いずれも当事者の間に争いがない。

控訴人は、本件禁猟区設定処分により昭和三十四年十一月一日以降禁猟区域内における鳥獣の蕃殖が著しく、群集して農作物を喰い荒し、山林を荒廃させるに至り、右区域内に在る本件農地においても同様に農作物が喰い荒され、そのため控訴人は相当の損害を蒙つているとして、本件農地に対する本件禁猟区設定行為が無効であることの確認を求めているのである。控訴人は本件禁猟区設定行為によつて、本件農地における鳥獣の捕獲を禁止され、有害鳥獣の駆除のための重要な手段に制限を受けるのであるから、本件禁猟区設定行為の無効確認を得るときは、このような手段を回復することができる訳である。然しながら有害鳥獣の捕獲は、単に、法律上の放任行為であるに止まり、それ自身は、法律上保護さるべき法益ないし権利ということはできず、従つて、控訴人が本訴によつて直接回復しようとする利益も右以上に出でないものといわなければならない。また、本件禁猟区の設定によつて鳥獣が蕃殖し、そのため控訴人所有の本件農地が荒されるとしても、それは本件禁猟区設定そのものの効果ではなく、間接なものと解する外はない。結局、控訴人が本件禁猟区設定行為の無効確認判決によつて受ける利益は右に述べたような間接の関係に過ぎないものといわなければならない。してみれば、控訴人は本件禁猟区設定行為の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有しないものといわざるを得ない。

よつて、控訴人の本件訴は、不適法として却下すべきところ右と結論を異にする原判決は不当であるから民事訴訟法第三八六条によりこれを取り消し、控訴人の本件訴を却下し、訴訟費用の負担につき同法第九六条、第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 村松俊夫 江尻美雄一 杉山孝)

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